クリエイターの旅路

自然の炎が生み出す美:登り窯・穴窯のやきものを訪ねる旅

Tags: 陶芸, 焼物, 窯, 登り窯, 穴窯, 自然釉, 窯変, 旅, 工芸, 信楽焼, 備前焼, 越前焼, 伊賀焼

自然の炎に導かれる創造性の旅へ

やきものの世界には、人工的に温度や酸素量を厳密に制御して焼成される現代の窯とは異なり、薪を燃料とし、炎の道筋や灰の降り積もりによって予測不能な美が生まれる焼成方法が存在します。それが、登り窯や穴窯に代表される自然の炎による焼成です。

これらの古式の窯で焼かれたやきものには、炎が直接土に作用することで生まれる独特の色合いや質感、灰が高温で釉薬化した「自然釉(しぜんゆう)」、炎の当たり具合による偶然の模様である「窯変(ようへん)」など、二つとして同じものが生まれない魅力が宿ります。

本稿では、この自然の炎が生み出すやきものの美に触れる旅として、登り窯や穴窯が今なお息づく、あるいはその歴史が色濃く残る国内のいくつかの産地をご紹介します。土と炎、そしてその土地の風土が織りなす創造の世界へ、旅を通じて迫ります。

登り窯・穴窯とは:土と炎の対話

自然の炎による焼成の中心となるのが、登り窯と穴窯です。

これらの窯での焼成は、現代の窯に比べて時間も手間もかかり、炎の管理には熟練の技が必要です。しかし、その手間ひまの中から生まれる、意図を超えた美しさが多くの人を魅了し続けています。

自然の炎が息づくやきものの産地を巡る

自然の炎による焼成は、日本の多くの古い窯業地で行われてきました。現在でもその伝統を守り、登り窯や穴窯で作品を生み出す窯元や、その歴史を伝える施設が各地にあります。

1. 滋賀県・信楽(しがらき)

日本六古窯の一つである信楽は、古くから大型の登り窯が使われてきた産地です。素朴ながら豊かな風合いを持つ信楽焼には、自然の炎によって生まれる「緋色(ひいろ)」(炎の通り道に現れる赤褐色の筋)や、薪の灰が溶けてできる「自然釉(ビードロ釉)」といった景色が多く見られます。広大な土地に点在する窯元の中には、今なお登り窯を使い続ける場所もあります。信楽陶芸の森などでは、信楽焼の歴史や自然釉のサンプルなどを見ることができ、炎が生み出す効果について理解を深めることができます。

2. 岡山県・備前(びぜん)

同じく日本六古窯の一つ、備前焼は釉薬を一切使わず、登り窯や穴窯で長時間焼成する焼締陶(やきしめとう)の産地です。土に含まれる鉄分と炎の作用によって生まれる、独特の肌合いや色合いが特徴です。窯の中で作品の上に落ちた灰が高温で溶けて胡麻を散らしたようになる「胡麻(ごま)」、積み重ねた作品の影になった部分にできる黒っぽい模様「桟切り(さんぎり)」、稲わらを巻いて焼成することで生まれる緋色の筋「緋襷(ひだすき)」など、多様な窯変が備前焼の大きな魅力です。備前市伊部地区には多くの窯元や古窯跡があり、自然の炎が作り出す偶然の美に出会う旅ができます。

3. 福井県・越前(えちぜん)

これも日本六古窯に数えられる越前焼は、中世から続く古い産地です。かつては多くの登り窯が使われ、自然釉を特徴とする素朴な焼締陶が焼かれていました。現代では様々な技法が用いられていますが、今も伝統的な登り窯を守り、自然の炎による焼成を続ける窯元が存在します。越前陶芸村では、越前焼の歴史を知ることができる施設や、登り窯の展示などがあり、この地の土と炎の物語に触れることができます。

4. 三重県・伊賀(いが)

伊賀焼は、長石が多く含まれる粗い土を使用し、主に登り窯や穴窯で高温焼成される焼締陶です。信楽と隣接しているため共通点も多いですが、伊賀焼は特に力強い歪みや、薪の灰が厚く溶けて棚から流れ落ちるようなダイナミックな自然釉が特徴とされます。炎による焦げ付きなども景色となり、荒々しくも表情豊かなやきものが生まれます。伊賀市丸柱地区には、古い窯跡や登り窯を持つ窯元があり、自然と一体となったやきもの作りを今に伝えています。

旅を通じて炎の美からインスピレーションを得る

これらの産地を訪れる旅は、単に美しいやきものを見るだけにとどまりません。登り窯や穴窯といった古式の窯跡や、実際に稼働している窯を見学することは、やきものが生まれる現場の迫力を肌で感じる貴重な機会となります。薪が燃える音、炎の揺らめき、そして窯から出てきた作品に現れる偶然の景色は、五感を刺激し、創造的なインスピレーションを与えてくれるはずです。

また、窯元の作家の方から、土の選び方、薪の種類、炎のくべ方、そして狙い通りの景色が出た時の喜びや、予想外の変化に出会った時の驚きなど、自然の炎と向き合う日々について話を聞くことも、大きな学びとなります。

自然の炎が生み出すやきものには、人工的な計算だけでは決して生まれない、力強くも繊細な美しさがあります。それは、自然の力への畏敬と、それを活かす人の知恵と技術が結びついて初めて生まれるものです。

まとめ

登り窯や穴窯を訪ねる旅は、やきものの根源的な魅力に触れる旅です。土と炎、そしてその土地の風土がどのように結びつき、 unique な作品を生み出すのかを知ることは、自身の創造活動においても新たな視点をもたらしてくれるでしょう。

それぞれの産地で異なる土の性質、使われる薪の種類、そして窯の構造や焼き方によって、生まれるやきものの表情は千差万別です。これらの違いを感じ取ることも、旅の醍醐味と言えます。

自然の炎が生み出す偶然の美に触れる旅は、きっとあなたの創造性に新たな火を灯してくれるはずです。