クリエイターの旅路

土と炎、そして民芸の心:島根・出西窯と湯町窯を巡る旅

Tags: 陶芸, 民芸, 出西窯, 湯町窯, 島根, 旅, インスピレーション, 工芸, 用の美, スリップウェア

旅は、見慣れない景色や文化に触れることで、内なる創造性を呼び覚ます機会を与えてくれます。特に、長い歴史と豊かな風土が育んだ工芸の里を訪れることは、ものづくりに携わる方々にとって、新たなひらめきを得る貴重な体験となるでしょう。本記事では、島根県に息づく民芸陶器の世界に焦点を当て、特に知られる出西窯と湯町窯を巡る旅を通じて、創造性を刺激するヒントを探ります。

島根の土と民芸の精神

島根県は、古くから製鉄や農業が盛んで、自然豊かな土地です。この地の土は、やきものに適しており、人々の暮らしに根差した陶芸が営まれてきました。特に、昭和初期に柳宗悦らによって提唱された民芸運動は、この地のやきものにも大きな影響を与えました。「民芸」とは、「民衆的工芸」の略であり、特別なものではなく、日々の暮らしの中で使われる道具の中に宿る「用の美」を見出し、価値づけようとする思想です。

島根の民芸陶器は、この「用の美」の精神を色濃く受け継いでいます。華美さを追わず、素朴で力強い形、土の質感を活かした釉薬、使い込むほどに味わいを増す特性などが特徴です。これらのやきものからは、作り手の誠実さや、自然への敬意、そして手仕事ならではの温かさが伝わってきます。

出西窯を訪ねる:土の色と暮らしの器

まず訪れたいのが、出雲市斐川町にある出西窯(しゅっさいがま)です。昭和22年(1947年)に、地域に暮らす若者たちによって開かれたこの窯は、民芸運動の指導者たちの教えを受けながら、実用的で美しいやきものを作り続けています。

出西窯の大きな特徴は、その土味と釉薬の色にあります。地元の土を使い、登り窯で焼成される器は、しっかりとした厚みがあり、使う人の手に馴染む温かさを持っています。代表的な色釉には、「呉須釉(ごすゆう)」と呼ばれる深い青色や、「緑釉(りょくゆう)」、そして土そのものの色を活かした「鉄釉(てつゆう)」などがあります。これらの色は、どれも派手ではありませんが、食卓に落ち着きと豊かな彩りを与えてくれます。

窯元の敷地には、やきものを展示販売する直営店「くらしの陶・無自性館(むじしょうかん)」があり、様々な種類の器を手に取って見ることができます。また、作業の様子を見学できる場合もあり、土を練り、形作り、釉薬をかけ、炎で焼き上げる一連の工程に触れることは、自身の創作活動における素材との向き合い方や、手仕事の尊さを再認識する良い機会となるでしょう。出西窯の器は、使い手にとって最高の道具であること、という信念のもとに作られており、その考え方そのものが、ものづくりへの深いインスピレーションを与えてくれるでしょう。

湯町窯を訪ねる:スリップウェアの楽しさと自然の色

次に訪れたいのが、玉造温泉の近くにある湯町窯(ゆまちがま)です。こちらは、出西窯よりも歴史が古く、バーナード・リーチなどの海外の陶芸家とも交流があった窯元です。湯町窯は、イギリスの伝統的な陶器である「スリップウェア」を日本でいち早く取り入れたことで知られています。

スリップウェアとは、泥漿(でいしょう)と呼ばれるクリーム状にした白い土を、スポイトや角皿などを使って器の表面に装飾する技法です。点や線を描いたり、櫛目を入れたりすることで、素朴でありながらもリズミカルで楽しい模様が生まれます。湯町窯では、黄色や緑、茶色などの釉薬と組み合わせることで、独特の温かい雰囲気を持つスリップウェアを生み出しています。

湯町窯の器は、日常の食卓を明るく彩ってくれます。カレー皿やグラタン皿、マグカップなど、実用的なものが多く、丈夫で使いやすいのも魅力です。窯元では、やきものづくり体験ができる場所もあり、実際に土に触れ、形を作る経験は、自身の陶芸技術を見つめ直すきっかけになるかもしれません。また、湯町窯周辺の自然環境や、近くの温泉地の雰囲気も、心身をリラックスさせ、新たな発想を生み出す助けとなるでしょう。

周辺のインスピレーションスポット

島根県には、出西窯や湯町窯以外にも、創造性を刺激する魅力的な場所が点在しています。

これらのスポットを巡ることで、島根の豊かな自然、歴史、文化に触れ、出西窯や湯町窯のやきものが生まれた背景にあるものをより深く理解することができます。

旅から創作へ:インスピレーションを形にする

島根での旅を通じて得たインスピレーションは、どのように自身の陶芸創作に活かせるでしょうか。

まず、出西窯や湯町窯で見た「用の美」の考え方を取り入れることができます。単に美しいものを作るだけでなく、使う人のことを考えた形、手触り、重さなどを意識することで、より深みのある作品が生まれるかもしれません。

また、島根の自然の色、例えば宍道湖の夕景のグラデーション、山の緑、土の色などからヒントを得て、釉薬の色選びや器の形に反映させることも可能です。スリップウェアの技法に挑戦してみたり、素朴な土の質感を活かす焼き方を模索してみるのも良いでしょう。

旅の間に心に留まった風景、人との交流、味わった食べ物なども、すべてが創造の種となり得ます。感じたこと、考えたことをメモしておき、アトリエに戻ってからゆっくりと見返してみましょう。

まとめ

島根県の出西窯と湯町窯を訪れる旅は、単に美しいやきものを見るだけでなく、民芸という思想、手仕事の尊さ、そして暮らしの中にある美しさについて深く考える機会を与えてくれます。この地で育まれた土と炎の芸術、そして豊かな自然や歴史に触れることは、陶芸に携わる人々にとって、技術的な面だけでなく、ものづくりへの向き合い方そのものに新たな視点をもたらしてくれるでしょう。

旅で得た五感からの刺激や、心揺さぶられた体験は、きっとあなたの創作活動に活力を与え、次の作品へと繋がる豊かなインスピレーションとなるはずです。ぜひ、島根への旅を通じて、自身のクリエイティビティをさらに深めてみてください。