クリエイターの旅路

民芸の美を訪ねて:福岡・小石原焼と小鹿田焼の里を巡る旅

Tags: 陶芸, 民芸, 小石原焼, 小鹿田焼, 旅

九州の手仕事が生み出す素朴な美:小石原焼・小鹿田焼の魅力

創作活動において、旅は新たな視点やインスピレーションをもたらす重要な機会となります。特に、ものづくりが息づく産地を訪ねることは、技術や歴史、そしてその土地ならではの風土に触れる貴重な体験となります。今回は、福岡県と大分県の県境に近い山間に位置する、小石原焼(こいしわらやき)と小鹿田焼(おんたやき)の里を訪ねる旅をご提案します。

これらのやきものは、柳宗悦らが提唱した「民芸」の精神を色濃く受け継いでおり、日常使いの器として広く愛されています。その素朴で力強い美しさは、日々の生活に寄り添いながらも、作り手の確かな手仕事と自然の恵みが融合して生まれます。

小石原焼の里、東峰村へ

福岡県朝倉郡東峰村に位置する小石原は、山々に囲まれた静かな里です。約350年の歴史を持つ小石原焼は、江戸時代に肥前国唐津から技術が伝わったとされ、その後高取焼の流れを汲みながら独自の発展を遂げました。

小石原焼の大きな特徴は、その多様な装飾技法にあります。「飛び鉋(とびかんな)」、「刷毛目(はけめ)」、「櫛目(くしめ)」、「指描き(ゆびがき)」、「流し掛け(ながしがけ)」など、ロクロを回しながらのリズミカルな手仕事によって生まれる文様が特徴です。

村内には多くの窯元が点在しており、それぞれの窯元で異なる作風や技法を見ることができます。道の駅「小石原」や「小石原陶の里館」などは、多くの作品に触れることができる拠点となります。実際に作品を手にとり、土の質感や文様を間近に感じることは、自身の創作への大きな刺激となるでしょう。

静寂の中に響く手仕事:小鹿田焼の里

小石原焼から山を越えた大分県日田市皿山地区にあるのが、小鹿田焼の里です。こちらはさらに静かで自然に囲まれた集落であり、独特の伝統を守りながらやきものづくりが続けられています。

小鹿田焼の歴史は、18世紀初頭に小石原から陶工を招いて開窯したことに始まります。特徴的なのは、開窯以来約300年にわたり、その技法と伝統が集落内の限られた家系によって、いわゆる「一子相伝」に近い形で守られてきた点です。また、共同体としての営みが強く、窯元ごとの個性を出しすぎず、里全体のやきものとして受け継がれています。

小鹿田焼のもう一つの大きな特徴は、「唐臼(からうす)」と呼ばれる装置で陶土を搗く(つく)工程にあります。谷川の水流を利用した唐臼の「ギー、バッタン」という音は、里の日常に響く心地よい音色であり、静かで力強いものづくりの営みを象徴しています。

小鹿田焼の器もまた、飛び鉋や刷毛目といった小石原焼と共通する技法を用いますが、より素朴で力強い印象の作品が多いのが特徴です。山里の自然に根差したおおらかさと、黙々と伝統を守り続ける作り手の精神が、器に宿っているように感じられます。里を訪れる際は、唐臼の音に耳を澄ませながら、静かに窯元を巡り、作品に触れるのが良いでしょう。

旅を通じて得るインスピレーション

小石原焼と小鹿田焼の里を巡る旅は、単に器を見るだけでなく、ものづくりを取り巻く環境、歴史、そしてそこに生きる人々の営みに触れる機会となります。

陶芸をされている方にとっては、両産地で受け継がれる独特の技法や、土の扱いに触れることは、自身の技術や表現の幅を広げるヒントになるかもしれません。また、これらのやきものがどのようにして日常の器として定着し、人々に愛されてきたのかを考えることは、作品のあり方について新たな視点をもたらすでしょう。

また、両産地を訪れる道中や滞在中に触れる豊かな自然も、創作の源となり得ます。山々の緑、流れる川の音、そしてそこで採れる旬の食材など、五感で感じるすべてのものが、創造性を刺激する要素となるはずです。

日帰りや1泊程度の週末を利用して、福岡・大分の山里へ足を延ばしてみてはいかがでしょうか。土と炎、そして手仕事が生み出す素朴で力強い美しさは、きっとあなたのクリエイティブな旅路に新たなインスピレーションをもたらしてくれるでしょう。